子供のこだわりを行動経済学的に科学する|基礎から学ぶコミュニケーション理論 NO.4(全4回)【子育て科学】
2016/07/26
4回の連載シリーズ最後です。
前回までにコミュニケーション理論、
そして今回はコミュニケーションエラーへのもう一歩踏み込み〝原因の本質〟について考えていき、子育ての悩み解決や幼児教育におけるブレイクポイントを見つけるキッカケになれば良いかと思います。。
理論だけでは回避できない生活の悩み
コミュニケーションエラーやトラブルがあったとき、子供に最善策を伝えても曲がらないときってありますよね?
このようなとき、我々には解らない〝譲れないこだわり〟と行動経済学的判断、また発育の差があると考えられます。
子供の〝こだわり〟の仕組み
子供が持つこだわりは、好奇心や趣味へつながる一種の向上心です。
この向上心は個性や気質を高めるため必要な能力ですが、状況や親の都合としては良くないケースが発生し、それが原因でモノゴトが進まなくなるケースもあります。
例えば以下のようなときですかね。
1.約束を守らない
ゲームの時間宿題や習い事
帰ってきたら手を洗わない
2.感情を曲げない
お散歩中にブルーになり歩かなくなるお菓子売り場で買ってあげるまで騒ぐ
過去にケガをしたことを平気で再発させる
3.お行儀が悪い
靴や服を脱ぎっぱなし騒ぐなと言っても騒ぐ
箸を使わず手で食べる
このような事象について、色々個人の性格やタイミングなども関係してますが、原因を探求すべく行動経済学的観点に当てはめて考えてみました。
行動経済学とは?
行動×経済
行動=人これぞれの自由な選択
経済=合理的・経済的な選択
ヒトはどう考えても合理的で経済的(お得)な選択があると解っていても、その時々の状況や気分(バイアス)や思いつき(ヒューリスティクス)によって判断を変えたり誤ってしまうことについて研究している学問。
こちら具体的な例を使ってご説明したほうが早いので先進めます。
子供の行動を邪魔する3つの現象
子供のこだわりを行動経済学的視点で考えた際、色々な事象が考えられますが主たるモノは以下3つだと考えてます。
1.現在思考バイアスがかかる
2.現状維持バイアスがかかる
3.ヒューリスティクスが働く
1.現在思考バイアスがかかる
先ずバイアスとは〝先入観〟や〝偏見〟のことで、 育った環境や文化、
誰しも合理的で同じ考えを持つことができないということの表れで
そして現在思考バイアスとは、 未来よりも現在の方が価値が高いと考えてしまうこと偏った考え方
大人の例だと、
どうしても目先の欲求に踊らされちゃうのは大人も子供も同じです。
2.現状維持バイアスがかかる
こちらもバイアスの一種。
新しい何かを受け入れたり、今を変えるよりも〝このまま〟
〝悪いクセや習慣が治らない〟ことや〝
こちらも大人の例だと、
3.ヒューリスティクスが働く
ヒューリスティクスとは「 必ず正しい答えを導けるわけではないが、
こちら大人の例だと、例えば薬局で化粧品を探しているとき、
その際、とある商品に〝業界No1〟とか〝
子供だと何かに迷った時、〝お母さんが言ったから〟とか〝
本当にバイアスとヒューリスティクスだけか?
子供のわがままを行動経済学的視点で考慮すると色々理解できました。
しかしこの考えに〝大人ではない〟という前提条件を付け加えた場合、子供特有の何かがあるのではとが新たな疑問が浮かびます。
このことについて私は〝発育の違い〟として以下2つの〝脳の使い方〟も関係しているのではと考えてます。
1.ゲシュタルト能力のエラー
2.オプション思考ができない
1.ゲシュタルト能力のエラー
ゲシュタルト能力を私なりの解釈で説明すると〝全体を一つと認識するチカラ〟と考えてます。
こちらは難しいので例を使って説明します。
※体感してください。
問題1:以下の1~6をキーワードを読んで、7以降のキーワードを考えてください。
【1】耳があります。
【2】二本足で立ってます。
【3】足が速いです。
【4】しっぽがあります。
【5】ワンと鳴きます。
【6】人間ではありません。
【7】牙がついています。
【8】・・・・・・・・・・
【9】・・・・・・・・・・
【10】・・・・・・・・・
問題2:このキーワードで伝えていることは何でしょうか?
この例で学ぶこと、実は問題の答えではありません。
そしてこの〝問題の答えを考えるプロセス〟がゲシュタルト能力です。
詳細を説明します。
先ず多くの人は【1】~【5】あたりで正解がわかり【8】以降のキーワードを考えることができたかと思います。
また【1】~【3】を確認した時点でヒューリスティクスが働いて“人間”だと考えた人もいるかも知れません。
この思考の処理を踏まえて次にゲシュタルト能力のエラーに説明します。
先ず多くの人はヒューリスティクスが働いて一旦“人間”だと考えた人でも【4】以降のキーワードを見て考えを見直し、新たな答えを創り出すことができると思います。
この答え探しにあわせて軌道修正するチカラがゲシュタルト能力てあり、なので〝全体を一つと認識するチカラ〟という風に考えてます。
ヒトは疑問を抱いたとき、答えとなる〝一つ〟を見つけるための思考が続きます。
しかし思考の途中で間違ったあと軌道修正ができず、間違った答えを持ち続けて本当の答えにたどり着けない状態がゲシュタルト能力のエラーと呼んでいるものとなります。
ゲシュタルト能力を理解できれば、ゲシュタルト能力のエラーが〝思考停止〟状態だということもわかりますね。
先の例でいうと【8】~【10】が考えられない状態は、【3】の一時回答でエラーが発生し【4】~【6】を受け入れない・拒絶反応を起こしてしまうような状態。
こんな例も考えてみました。
・目的を遂行しているときに目的を見失ってしまうこと。
・大きな目的のために実行する小さな目的でつまづいて立ち戻れないこと。
・子供のリクエストに答えて大好きな公園に行く途中、ちょっとしたトラブルがあり落ち込み、座り込んで動かなくなること。
・ちょっとしたミスが原因で、今までできていたことができなくなったり怖くなったりすること。
あまりヒドいとエラーというよりもトラウマですね。
またこれらはモノゴトに対する価値観が変わったからと考えることもできるでしょう。
しかし、たとえば何かを伝えるときにいつも「ABC」と伝えて理解していたものを「CBA」と伝えて全く意味が通じなくなってしまうこともゲシュタルトが関係しています。
なのでゲシュタルト能力はヒューリスティクスでも価値観の変化でもないものとして捉えるべきで、成長すれば色々な知識や感情や価値観を得て、尚且つ記憶力も高まっているのでエラーは起こりづらくなるものです。
またゲシュタルト能力は奥が深く、理解が難しいものです。
しかし幼児教育や学習能力向上にひも付く非常に重要な人間の能力ですので、今後も詳しく触れていきます。
そのため今回は概念のみをつかんでいただきたいです。
2.オプション思考ができない
オプション型思考とは、おおよそ以下3つのようなものです。
1.複数のことを同時に進めることができるチカラ。
2.モノゴトを考えるときに、複数の選択肢をもって考えを進め解決方法を見つけ出すチカラ。
3.既存のルールに則ってモノゴトを進めているとき、新しいやり方を生みだそうと考えるチカラ。
簡単にいうと脳への同時接続数ですね。
このチカラが幼少期にできないのは当たり前。
大人すらできない人はいるわけですしね。
なのでオプション思考ができない状態はある意味パニック状態であり、一つのことに十分に集中していない状態とも言えます。
これは成長につれ同時接続数や優先順位付けられるようになりますが、有りがちな例をちょっと考えてみました。
・モノを持ちながら急いで歩かせる。
→ものを落としたり転んだりする。
・ご飯を食べてるときこぼした。
→その時にテレビをみてませんか?
“落ち着いて行動する”とは、目的へのプロセスや同時進行するタスクを一つずつ丁寧に実行することで、オプション思考の同時接続数を減らすようなものです。
そのため、子供が現在同時進行しているのタスクを数え直し、優先順位をつけさせるのがミスを少なくする方法につながります。
子供の悩みや迷いを防ぐ方法
ここまでのお話でこだわりの裏にある原因の多くが成長段階の過程にある若さだとわかってきました。
しかしだからといって大人が我慢できるものでもありません。
そのため、このような事象にならないようどうすれば良いのかを考えた時、ひとつの方法として“緩やかな介入主義(リバタリアンパターナリズム)”という考え方を提案します。
“緩やかな介入主義(リバタリアンパターナリズム)”とは?
先ずこの考え方は、行動経済学研究の第一人者で米シカゴ大学ブース経営大学院特別招聘教授リチャード・セイラーが、現在米オバマ大統領の法律顧問を務める法学者キャス・サンスティーン米シカゴ大学法科大学院教授との共著した以下の本で論じているものです。
この方に関する情報は日経ビジネスにも記事があるので、これからお伝えする内容に興味がある方はご確認ください。
そして、この“緩やかな介入主義(リバタリアンパターナリズム)”を簡単に説明する以下のようなものです。
親が目指したいゴールにいけるよう“選択しやすい”状態を用意し、子供が“自らの自由選択”でより良い方向へ進むよう働きかけること。
また自ら選択するための全体設計と“初期値(ディフォルト)”を調整すること。
簡単にいうと“デザインされたしつけ”で、具体的な例は以下のようなものです。
1.これからやることを伝え、どのようにやるべきかの選択肢を与え選択肢させる。
2.何かを終わらせたいとき、その方法を幾つか提示して最善策を選ばせる。
このとき、親が自分の(都合良い)選択肢を事前に用意しておくこと、選択肢しやすいようなヒントを与えること、また選択すること(次に進むこと)が前提として埋め込まれていること。
例えば子供と出かける前のぐずりのとき、
また初期値(ディフォルト)の設定は、最初からどうすべきかをデザインして、それが当たり前であるという風に思わせること。
我が家では娘へ4歳の誕生日からお小遣い制を取っており、毎週土曜日に300円渡してます。
ちょっと多いかと思うかも知れませんが、全てこのお小遣いから自分の意志で買うルールとしているので、お菓子をねだられたり、無闇にものを欲しがらないです。
しかし時々何かをねだられると「お小遣いで買えば?」といって考えさせますし、過去には妖怪ウォッチが欲しいとのことで一生懸命お金を貯めてました。
そのおかげで無駄遣いもしないし、我々へもお金の使い方に厳しくなってます。
またお小遣いを電子カウンター付きの貯金箱に貯めており自由に出し入れできるようにしています。
最近はハワイに行くためのお金を貯めているようですw。
まぁそんなこといっても例外はあるんですがね・・・・
最初からやらなければ発生しない問題もあるという変わった例です。
■まとめ
1.子供のこだわりは以下の3つ行動経済学的現象が影響していると考えられる。
1.現在思考バイアスがかかる =今が一番!
2.現状維持バイアスがかかる =変わりたくない!
3.ヒューリスティクスが働く =だって!(思い込み)
2.行動経済学的現象以外にも、未成熟が故の問題も発生する。
・ゲシュタルト能力のエラー =思考停止
・オプション思考ができない =キャパシティーオーバー
3.子供を制御するには【デザインされたしつけ】が有効
しかしトラブルは発生する。
ここまで紹介した理論や予防法など全てを実行したとしても、コミュニケーションエラーは必ず発生しまいます。
しかし、理論を知り状況を注意深く洞察することで、数多くの事象は回避できます。
また親が成長すること、それは一番の近道なのかも知れませんね。